活動レポート

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境界トラブル


工藤さんの道 第4話 「境界トラブル」

 

大阪の不動産業界で数々の難題を解決してきた工藤は、今日もまたやっかいな案件を抱えていた。

依頼人は50代の男性・佐々木。彼は亡き父から相続した実家を売却しようとしたが、隣地との境界に問題があり、なかなか話が進まないという。
 

「父が40年くらい前にこの家を建てたんですが、どうやら当時の境界が曖昧みたいで……隣の山本さんが『ウチの敷地に入ってる』って言い張るんです」

工藤は佐々木の実家に向かった。古い住宅街の一角にあるその家は、築40年を超え、ところどころに傷みが見られた。

問題の境界線には、朽ちかけたブロック塀が立っているが、確かに少し歪んでいる。

隣の家の持ち主・山本は、70代の頑固そうな男性だった。
 

「昔はこんな塀、なかったんや! いつの間にか勝手に作られたんやで!」
 

山本の主張はこうだ。
もともとこの土地の境界は、もう1メートルほど佐々木の家側にあったはず。ところが、佐々木の父親が建てたブロック塀が、山本の土地を侵食しているというのだ。
 

「測量の資料とか、過去の図面はありますか?」

工藤が尋ねると、佐々木は首を横に振った。
 

「父は適当な性格だったんで、書類とかはほとんど残ってないんです」
 

これでは正確な境界が分からない。しかし、不動産の売却には境界の確定が不可欠だ。下手をすれば裁判になり、何年も売却ができないまま放置されることになる。

 

現地測量と証言集め

 

工藤はまず、土地家屋調査士に依頼し、現地測量を行った。
最新の測量機器で確認した結果、ブロック塀の位置が微妙に境界を超えている可能性が浮上した。
 

「ただ、古い住宅地では誤差が出ることもあります。過去の資料や証言が重要になりますね」

調査士はそう付け加えた。
 

そこで工藤は近隣の古くから住む住民に話を聞いた。すると、意外な証言が出てきた。
 

「確かに昔は境界が違った気がするな。でも、このブロック塀ができたのは30年以上前やで。そのとき、山本さんは何も言わんかったんちゃうか?」
 

これが事実なら、**「時効取得」**の可能性がある。
つまり、佐々木側が30年以上、所有の意思を持って土地を使い続け、山本が異議を唱えなかったのであれば、法律上は佐々木側の所有権が認められるケースもある。
 

交渉と和解案

 

しかし、工藤は裁判には持ち込みたくなかった。時間もコストもかかるし、隣人同士の関係が完全に破綻する可能性がある。
 

「山本さん、今さら1メートル戻せと言われても、現実的には難しいですよね? でも、山本さんの気持ちも分かります。
そこで、折衷案として『境界確認の合意書』を作成し、土地を正式に分けるのはどうでしょう?」
 

工藤の提案はこうだ。

  1. 現在のブロック塀の位置を正式な境界とする代わりに、佐々木側が和解金を支払う
  2. 境界線を確定し、今後のトラブルを防ぐため、正式な測量図を作成する
  3.  

山本はしばらく考えた後、渋々ながら頷いた。
 

「まぁ、今さら裁判しても面倒やしな。条件次第やけど、それでええわ」
 

和解金は少額に抑え、正式な測量図を作成して「境界確認の合意書」を締結。こうして、長年曖昧だった境界問題は解決し、佐々木は安心して家を売却できることになった。
 

工藤の流儀

 

帰り道、工藤はつぶやいた。

「境界トラブルってのは、地面の問題やなくて、人の心の問題やな……」
 

土地は目に見えるものだが、それをどう扱うかは人の思い次第だ。
そして、工藤の仕事は、その思いを整理し、新たな道を作ることだった。


第4話 完